演出家・熊林弘高インタビュー

それは、現代に生きるわたしたち自身を映す、愛と憎しみの鏡。

家族劇のスペシャリスト、と呼んでしまおう。演出家・熊林弘高は、戯曲の言葉の背後に潜む、家族一人ひとりの欺瞞や本音を、容赦なく暴き出して、高く評価されてきたクリエイターだ。そしてこの『アザー・デザート・シティーズ』も、まぎれもない家族劇。演出家は、この戯曲に何を見ているのか。熊林弘高に話を訊いた。

Qなぜこの作品をやることになったか、というところから、訊かせてください。
もともとは麻実れいさんと始めた話なんです。麻実さんが、またぼくと一緒にやりたいというのと、もうひとつ、(佐藤)オリエさんとやりたいという希望があった。そのとき、ふと思い出した作品があって、それがこの『アザー・デザート・シティーズ』だったんです。2010年に、オリエさんや麻実さんと『おそるべき親たち』を初演したときに、ブロードウェイでこの作品を観たある方から薦められていたんです。それをふと思い出して、とりあえず下訳してもらって読んだら「あ、いいかも。じゃあこれやりますか」って。オリエさんに読んでいただいたら「やりたい」って言ってくれて

Qキャスティングが動き出したわけですね。
麻実さんは、今回のシルダという役について、いろいろとお悩みがあったようだけど、でもやってくれることになった

Q麻実さんから直接聞きました。主人公のブルックにとっては伯母にあたる人の役。「お断りするつもりで熊林さんに電話したんですけど…」と。
今では、ご家族から「ぴったりの役」って言われているそうです(笑)。最初は「ただの賑やかし的な役なのかしら」と思っていたらしい。でも、何回か電話で話すうちに「これ結構大変な役ね」って(笑)。黙っていることが多くても、舞台上にい続けなければいけない役。そこで彼女が何を感じているかを本当に演じていかなければいけない。「大変よねこれ」って

Qブルックは寺島しのぶさん。
ブルックは誰って考えたときに、前から、ぼくと寺島さんで何かをやろうという話がいろいろな都合で着地していなくて、寺島さんに相談してみたらOKで

Q中嶋しゅうさんと中村蒼さん。
しゅうさんのマネジメントの方と食事をしたときにこの作品の話になって「でもしゅうさん忙しいもんね」って言ったら、うまく空いていたので、父親のライマン役に。弟のトリップは、たまたま、TVでドラマ『せいせいするほど、愛してる』を観ていたら中村蒼さんが出てて、「こういう感じの人がトリップやればいいんだよね」って思ってオファーしました

Qこの作品を5,6年前に紹介してもらっていて、もう1回下訳を読んで、いいと思った。そのいいと思った部分をもう少し肉付けしてもらいたいんですけど。
ミステリのような展開が、まず、いいと思った。初めて観るお客さんも多いわけで、ミステリのように、ある真実が判明していくのがいいんじゃないかなと思ったんです。どの役もおもしろいから、役者さんたちもやりがいがあるんじゃないかなって思ったし

Q決めてから、しっかり戯曲を読み込んでいく作業が始まりました。
そもそも、主人公で作家のブルック・ワイエスが、何をしに自分の実家へ戻ってきたんだろう、と考えた。彼女の目的は「彼女が執筆したこの一家の回想録を、父と母に見せる」っていうことじゃないですか。この一家が封印してきたある過去の秘密を、世間に向かってバラすぞっていう。だけど、作家ブルック自身もその家族の一員なわけだから、暴露した影響は必ず自分にも及ぶはずなんですよ。「あ、これって、今で言う自爆テロなんだ」って、まず思った。それともうひとつ、この戯曲の中に『ハムレット』を思わせる表現がよく出てくるなと気づいた

Qどういうことですか。
この作品の前に演出した『かもめ』の旅公演に、この台本を持って行ったんです。で、時間があるときに読んでたら、この戯曲の中に『ハムレット』を思わせる表現がよく出てくる。作中人物が高校のときに『ハムレット』を演じていた、というような直接的な言及もありますし、他にも、例えば、長女で作家のブルックが「私の本、私の本、私の本」って言うセリフがある。これ、まさにハムレットのセリフですよね、「言葉、言葉、言葉」っていう、あの有名なセリフを思わせる。そういう発見があって、結局これは、『ハムレット』の劇中劇をやるんだな、と思ったんです

Qもう少し噛み砕いていただきましょう。
『ハムレット』の劇中劇は、旅芸人たちの演じる芝居を、ハムレット自身が観ているかたち。義父のクローディアスも実母のガートルードも観ている。要するに、ハムレット自身の目から見た「父殺し」の物語を、『ハムレット』の主要登場人物みんなが観ている構造になっています。この戯曲も同じことだなと気づいた。長女で作家のブルックが、自分自身で観たいと思っている「真実」を、回顧録という形で家族全員に観せようとしている。そういう自爆テロですよね

Q2012年に、トニー賞演劇部門の作品賞にノミネートされた作品です。9.11の後に書かれた戯曲。
初演は2010年でしょう。今から7年前ですけど、でもやっぱり、2017年の今現在のアメリカの状況を、この一家の父親のライマンが体現しているような気がしますね

Q一家の父ライマンは、共和党の政治家で、元はハリウッドの映画俳優。かつてのレーガン大統領を思わせる人物です。
トランプ大統領が当選して、ポピュリズムという嵐が吹き荒れている。アメリカは本当に建前の国。ポリティカル・コレクトネス(=政治的な配慮を踏まえた正しい言葉遣い)っていうんですか、差別的なことを口にしてはいけないと言いながら、でもアメリカに差別はある

Qまさしく建前ですよね。
結局、今、建前ではなく、本音が噴出したわけですよね。移民OK、アメリカンドリームだ、っていう価値観で動いてきたのに、結局は「みんな本当はこう思っていた」というような別の価値観があって、トランプみたいな人物が出てきて、急に本音がドカンと出て、当選してしまった。アメリカに限らず、フランスだってそう、イギリスもそう。みんな本音がどんどん出始めている。この戯曲の父親ライマンはそういう人物なんだなと思います。彼は元役者だって言って、役者の仮面をかぶって、物分りのいい父親をやっていても、すべてウソ。最後はボロボロボロボロ本音が出て、ヒステリーになったりする。今の情勢、今の時代を体現している気がするんです

Q舞台美術などヴィジュアル部分で、何か考えている仕掛けはありますか。
仕掛けというほどではないんですけど、今回は、長女で作家のブルックが、セリフだけじゃなく戯曲のト書きも読んでしまう、ということにしたい。長女で作家のブルックが見ている、彼女自身の「真実」の物語だから。だったらもう「ごっこ遊び」みたいな感じでいいと思います。この戯曲を読んで普通に考えるのは、立派な邸宅、ソファがあって、暖炉があって、ということだと思うんですけど、ト書きも読むんだったら、その必要もない。最初は、何もない空間があって、そこにブルックがト書きを読むことによっていろんなものが配置されていく。ト書きには椅子や暖炉と書かれていても、椅子や暖炉じゃなくてもいい。だから、舞台美術に関しては、リアリズムの方向では行かない。稽古場の仮セットみたいな感じの中で演じていくイメージです

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