映画評論家 浜村淳さんが『グランドホテル』の魅力を語る!
「映画革命を起こした群像劇の元祖に挑むとは!? 演出家の手腕に期待します」
更新日:2016/3/25
幅広い知識を生かし映画評論家、司会、パーソナリティーとしてご活躍の浜村淳さん。舞台にも足繁く通われる浜村さんの目から見た『グランドホテル』の魅力に迫ります。
──映画『グランド・ホテル』の見どころは?
これは一つの映画革命を起こした画期的な映画です。この作品が製作された1932年というと“彼と彼女の物語”が主流。同じ場所に人々が集まり、それぞれが定められた運命をたどりながら絡み合う、このようなスタイルの映画は初めてでした。下手な監督が撮ると収拾がつきませんが、これが巧くて大成功を収めました。それから駅や空港を舞台に同じような映画が作られ“グランドホテル形式”と言われました。その元祖ですから、素晴らしい作品として映画史に燦然と残っています。
──当時の映画として群像劇は画期的だったのですね。
そうです。ちなみに一つの場所に色んな人が集まる“グランドホテル形式”以外に、“舞踏会の手帖形式”というのがあります。フランス映画『舞踏会の手帖』は、手帖を元に人々を訪ね歩くというものでした。これも古い映画ですよ。極端に言いますと、現代の映画は昔の映画をベースに色々と味付けを変えて作っているところがあります。この時代に映画がトーキーになり、カラーになりと様々な映画革命が起こったわけです。
──『グランド・ホテル』はキャストも大変豪華だったと言われています。
まずグレタ・ガルボがグルシンスカヤ役を演じていて華やかでしたね。全盛時代の彼女が落ち目のバレリーナを演じるとは! 彼女は“神聖ガルボ帝国”と言われたぐらい私生活を全く明かさない女優でした。ローマ帝国みたいに誰も踏み込めない神聖さを持っているという意味です。世界的な人気を誇った彼女が36歳で引退したのは驚きました。まるで“日本の原節子”ですよ。そのグルシンスカヤと恋に落ちる男爵役がジョン・バリモア。彼も大スターです。髭を生やしダンディですよね。貯金を全て使いホテルで贅沢をして人生を終わろうとしている、オットー役のライオネル・バリモアも巧かったですね。「高級キャビアを用意していますよ」としきりに人を部屋に誘うでしょ。哀愁があっていいですよね。可愛いフレムシェンを演じたジョーン・クロフォードは、その後大姉御のような役を多く演じ、映画界に君臨するのだから面白いです。
──物語の舞台となっているのが1920年代のベルリンです。
ミュージカル『キャバレー』がまさに同じくドイツを舞台に、ナチスが台頭する頃を描いたお話ですね。あの作品も緊張と、そこから逃れたいという気持ちの両方が描かれていました。ベルリンのグランドホテルは当時のドイツでは最高級ホテル。そこを舞台に大勢の人のドラマが絡み、事件まで起きる。非常に面白い話ですよ。
──この作品からどんなメッセージを受け取られましたか?
人にはそれぞれ運命、宿命があるということですね。誰かと触れ合うことで、運命が何倍にもいい方向へ向かうこともあれば、思いがけず悪い方向へいくこともある。グランドホテルの一夜で展開する運命の不思議さを感じますね。これをミュージカルでは歌と踊りで盛り上げるのですから見応えがありますよ! 宝塚歌劇でも上演されましたが、今回は男性も加わりWのチームで演じるということで楽しみです。演出家は非常にやりがいがあるでしょうね。群像劇の元祖に挑むわけですから。ドラマ性が高く、観る人はそれぞれの人生を自分自身や知り合いに当てはめて、ハラハラドキドキするはずですよ。
<浜村 淳 プロフィール>
京都市生まれ。文学・芸能など、幅広い知識を生かし、MBSラジオ「ありがとう浜村淳です」(1974年放送開始)他にレギュラー出演中。
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取材・文/小野寺亜紀