ストーリー
思い返すと、その屋敷は確かに立派な門構えではあったが、迷子になるほど中が広大だったとは、男は思いもしなかった。
男は、気まぐれに親切にした若い女に招かれそこへ来た。最初、女はこの屋敷の女中かと思っていたら、実は主人の女房だった。年の離れた亭主を持つと、若くともこんなアンバランスなムードを身にまとうようになるのかと、男は勝手に納得する。
屋敷の中は薄暗い上、廊下も恐ろしく長く、部屋の数も分からなかった。
数日経って、友人が連れ戻しに来たが、男は「帰ろうにも出口にたどり着けないんだ」などと困った顔をする。
中庭を挟んだ向かいの広間で、夜ごと催される誰かの宴。その幻想的に揺らめく人影をぼんやり眺める女に、男は次第に惹かれていく。男を躊躇させるのは、留守がちで、まるで自分の妻を斡旋するかのような、主人の謎の振る舞い。
引き留めるわけではないが、時折、何やら共謀をほのめかすような女と、その主人との間で、男は次第に正気を失っていく……。