やるべきことに実直な男くささ――。フランケンシュタイン役をもっと深掘りしたい
1月に大阪で行われた合同取材会に中川晃教さんが出席。科学者のビクター・フランケンシュタイン役への新たな向き合い方、作品の魅力、20年以上ミュージカル界で活躍してきたなかで今感じることなどを、熱く語りました。
――再々演に向けての思いをまずお聞かせください。
大阪の再演は、梅田芸術劇場メインホールで2020年2月に上演されたのですが、得体の知れないウイルスの情報が出始めたころで、観客の皆さんがマスクをされていた光景が今も頭に残っています。世界ではさまざまなことが起こっていますが、人間の平和や幸せ、誰もが抱く希望や理想といった普遍的で変わらないものが、この作品のテーマにあります。そのなかで、“死”から“生”を創ろうとする男を再び演じるということで、僕自身、信念をもってエンターテインメントを創っていかなければと思います。
――演じられるビクター・フランケンシュタイン役について、初演、再演を経ての変化や、思いが深まったところがあれば教えてください。
たくさんあります。これは作品の見どころにも繋がるのですが、(メインキャストがそれぞれ)二役を演じることが、この作品のエンターテインメント性のひとつであり、“人間とは何か”というテーマも掘り下げやすいように創られています。そういう点から、二役を演じることでひとりの人間の孤独が反動として生まれるのですが、再演ではその反動を利用して役を演じていました。今回はビクター・フランケンシュタインという人間を、もう少し深掘りしてみたい。自分のやるべきことに実直に向き合う彼の男くささ、人間くささなど、少し自分が避けていた部分の表現も見いだせたらと思います。
――作品の見逃してほしくないポイントは?
少し難しいテーマも含めて「挑む!」というスタンスです。先日東京でミュージカル『レ・ミゼラブル』を観たときに、俳優の皆さんが鍛錬の賜物と言えるような“球”を放ち、客席にいる私たちが受け取るというような、しっかりと創られたものが客席に届く安心感を得ました。パフォーマンスに感心し、気づけば物語に入り込み、最後はスタンディングオベーションをしたくなる、そういう気持ちを『フランケンシュタイン』でも味わっていただきたいです。
――新たに参加される小林亮太さん、島太星さんの印象を教えてください。
おふたりとは東京での記者会見が「初めまして」で、まだ「二度目まして」はないのですが、小林さんはストイックで真面目で、自分で言うのもなんですが僕と似ているなと(笑)。島さんは北海道ご出身と伺ったのですが、怪物っぽさをちょっと感じましたし、三代目の怪物役ということで期待値が高まっています。新しい風を吹き込んでくださるのは、僕たちにとってすごく幸せなことです。
――『フランケンシュタイン』は中川さんにとってどんな作品ですか?
近年、韓国ミュージカルが周知され、ブロードウェイやウエストエンドのような発想で、海外へ輸出しようとしているのが素敵だなと思います。そんななかで上演された『フランケンシュタイン』日本公演の初日は、今でも忘れられません。韓国のクリエイターや、(韓国版の)フランケンシュタイン役のユ・ジュンサンさんたちがグランドサークルに座っていて! でも僕自身は「皆さんどう思われるのだろう」とか考えずに、体当たりで演じた記憶があるんです。それだけ欲心を捨てて挑むことができました。この作品は、それだけ本気になれて、真剣になれる。僕は19歳からミュージカルの世界でいろいろ経験させていただき、30代で出会った役ですが、初心にかえる気持ちにさせてくれます。どうか体当たりする中川を見てください!
――再演の5年前と現在でのご自身の成長や変化は?
僕は「歌は語るように、台詞は歌うように」という言葉を子どものころから心に留め、ミュージカルの世界に飛び込み、デビュー作の『モーツァルト!』で演じる面白さを初めて知りました。それから早23年経とうとしているのですが、やっぱりミュージカルで人の心をつかむのは、すごいことだなと思います。今は役を一生懸命生きる、稽古を一生懸命するというだけではなく、その前後、自分の生きている時間が、(出演する)ミュージカルに繋がっていくことの喜びを味わえるようになりました。
――そんな今の中川さんだからこその意気込みを改めてお願いします。
最近、カンパニーの空気みたいなものが、そのまま舞台に繋がっていけばいいなと思うようになり、自分もそういうことができるようになるには、どうすればいいだろうと考えています。カンパニーの皆さんの持っている素晴らしさが自然体のまま出れば、きっといいパフォーマンスができると思うんです。僕と同じく3度目の加藤和樹さんという心強いバディがいますし、今回の俳優の皆さんと何が生まれてくるのか。そこに力を注いでいきたいです!
取材・文/小野寺亜紀 撮影/南 伸一郎