イントロダクション

没後40年を迎え、その稀有な才能に再び注目が集まる寺山修司。もし寺山が今生きていたら、何を思い、何を表現したのか。虚実に満ちた寺山のパワフルな世界が、新進気鋭の作家池田亮の脚本とデヴィッド・ルヴォーの演出、香取慎吾主演で立ち上がります。舞台は生と死が交錯するキャバレー。寺山の詞による多くの昭和の名曲を織り交ぜた、これまでにない驚きの音楽劇。

デヴィッド・ルヴォー

演出家:
デヴィッド・ルヴォー

コメント

「どんな鳥だって想像力より高く飛ぶことはできないだろう」- 寺山修司
寺山修司の生涯と残された言葉からインスパイアされた作品。

イギリスで演出家を目指し始めた頃、自分は幸運にもロンドンのリバーサイド・スタジオにてジュニア・アシスタントを務める機会を頂きました。当時、芸術監督だったデヴィッド・ゴサード氏の方針のおかげで、1960年代から70年代にかけて活躍したアーティストたちの作品に巡り会うことができました。彼らの作品は演劇の可能性を変えただけでなく、世界の見方そのものを変えるきっかけだったのです。

その巡り会いの中にはアヴァンギャルドに分類されるものも多くありました。あの有名なアメリカのリビング・シアター、パリのピーター・ブルックの作品、ダリオ・フォ、ポーランドのタデウシュ・カントルに加え、世界中の様々な振付師、ダンサー、音楽家、パフォーマー。そしてサミュエル・ベケット。この巡り会いはハリケーンのように激しい教育の一環として、不変的だと誤解していた自分の限られた想像の範疇を、まるで壁や扉をなぎ倒すごとく打ち破っていきました。

そしてその美しい嵐の中から降ってきたのは、寺山修司と「天井桟敷」によって繰り広げられた『奴婢訓』でした。1978年にヨーロッパ・ツアーの一環としてロンドンのリバーサイドにて上演され、当時学生だった私は、この作品が観客に与えた衝撃を今でも鮮明に覚えています。

イギリスの観客にとって、偉大な日本のアーティストが日本の現代演劇をヨーロッパで上演することは大変珍しいことでした。寺山が創り出した大胆で爆発的、官能的で残酷、そして度々ロックな音楽表現を駆使した演出は、誰が見ても世界にも通じる光り輝く混沌のオペラだと確信できました。それは型破りで、人類の「奇妙さ」を体現するのに相応しい声を模索する足掻きかのようでした。

もちろん、当時学生だった私は、自分がいつか日本へ赴くことを想像すらしていませんでした。しかし、寺山をはじめ、三島由紀夫や蜷川幸雄、そして私の友人であり素晴らしいアーティストの野田秀樹が日本への案内人となっていったのでした。

このプロジェクトは、素晴らしい作品を作り上げてきた偉大な寺山修司や案内人達への感謝、現代日本に対する敬意の上でこそ成り立っており、多くのコラボレーターと協働で作り上げているエンターテイメントだと極めて個人的に感じています。この作品は、寺山を「再現」することが目的ではありません。それは誰であれ、不可能な事だと思います。イギリスの演出家なら尚のこと、無理でしょう。しかし、このプロジェクトが提案された時、自分にはやらないという選択肢はありませんでした。ただし、その上で、一つ疑問がありました。

寺山修司は社会的、または身体的な「のけ者たち」を作品の中心に据えていました。そんな彼は、今の世界をどう思うだろうか?歌舞伎町の子供たちや、顔の見えないロボットたちが踊りくるっているようなSNS上の孤独や疎外感に、彼はどう反応するだろうか?

彼の眩しいほどの想像力の灯火は、嵐のような現代において、どれほど奇妙で、滑稽で、とんでもない美しさを我々に見せてくれるのだろうか?

ロンドン、 2023年9月

プロフィール

1957年生まれ、イギリス出身。82年に『日陰者に照る月』で、ウエストエンド演劇賞を受賞、トニー賞4部門にノミネート。93年よりシアタープロジェクト・東京(TPT)の芸術監督を務める。 TPTで演出した『テレーズ・ラカン』は、第1回読売演劇大賞と演劇作品賞、紀伊國屋演劇賞個人賞を受賞。03年の『NINE』は、トニー賞6部門にノミネートされ、ベスト・リバイバル・ミュージカル賞など2部門で受賞。18年に米NBCミュージカルライブ『ジーザス・クライスト・スーパースター』を演出し、エミー賞13部門にノミネート、5部門受賞。梅田芸術劇場主催公演での演出作品は、舞台『黒蜥蜴』、音楽劇『道』、舞台『ETERNAL CHIKAMATSU』など多数。
香取慎吾

コメント

死を迎える寺山修司を演じます。 デヴィッド・ルヴォーさんが奏でる寺山修司に、僕の今をぶつけます。 熱いキャバレーになりそうです。 心燃やして参加します。

プロフィール

1977年1月31日生まれ。1991年にCDデビュー、2017年にオフィシャルファンサイト「新しい地図」を立ち上げ、TV番組、ラジオ、CM等へ出演中。主な出演作は、映画「犬も食わねどチャーリーは笑う」(2022年)、舞台「日本の歴史」(2018/2021年)「burst!」(2022年)など。2023年にはソロライブ「Black Rabbit」を開催。現在、個展「WHO AM I -SHINGO KATORI ART JAPAN TOUR-」で、東京・大阪・福岡・石川・広島・福島へと全国を巡回中。
脚本:
池田 亮

プロフィール

1992年生まれ。2015年舞台・美術・映像をつくる団体「ゆうめい」を結成。
17年東京藝術大学大学院美術研究科彫刻専攻卒業。作・演出を担う「ゆうめい」で『弟兄』、『姿』、『娘』、『ハートランド』など数々の作品を発表。ほか、『天才テレビくん』(NHKEテレ)ドラマ脚本、『ウマ娘』(TVアニメ)一期二期脚本、「生ドラ!東京は24時」第二夜『美大の駅伝』(フジテレビ)監督・脚本、『最初はパー』(テレビ朝日)に俳優としてレギュラー出演や、ハンドメイドショップ「トイフクロ」の運営、造形作家としても活動中。また、TOHO MUSICAL LAB.にて『DESK』(脚本演出)23年11月上演決定。

ストーリー

1983年5月3日(火)、寺山修司はまもなくその生涯を終えようとしていた。寺山の脳内では、彼を慕う劇団員がキャバレーに集まっている。寺山が戯曲『手紙』のリハーサルを劇団員と始めたところへ、死が彼のもとにやってきた。死ぬのはまだ早いと、リハーサルを続けようとする寺山。死は彼に日が昇るまでの時間と、過去や未来へと自由に飛べるマッチ3本を与える。その代わりに感動する芝居を見せてくれ、と。

寺山は戯曲を書き続けるが、行き詰まってしまう。そこで、死はマッチを擦るようにすすめた。1本目、飛んだのは過去。近松門左衛門による人形浄瑠璃「曽根崎心中」の稽古場だ。近松の創作を目の当たりにしたことで、寺山の記憶が掻き立てられる。2本目は近未来、2024年のバレンタインデーの歌舞伎町へ。ことばを失くした家出女や黒蝶服、エセ寺山らがたむろするこの界隈。乱闘が始まり、その騒ぎはキャバレーにまで伝播。よりけたたましく、激しく肉体がぶつかり合う。

寺山は知っている。今書いている戯曲が、死を感動させられそうもない、そして自身も満足できないことを。いまわの時まで残りわずか。寺山は書き続けた原稿を捨て、最後のリハーサルへと向かう。

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