インド映画界を代表するばかりか、アカデミー賞を受賞し欧米映画でも評価の高い音楽監督A・R・ラフマーンを起用したミュージカルとあって『ボンベイドリームス』日本版公演がどのような形に生まれ変わっているか、期待しないわけにはいかない。
長年、ボリウッド映画をウォッチングして来た身からすれば、ラフマーンがボリウッド映画などに提供して来たナンバーが、どう日本語に置き換えられ、歌われているのか?気になるところ(曲紹介はこちら)。
また、物語のキーパーソンとなるスウィーティ(インドでは男でも女でもない第三の性を持つ存在とされる「ヒジュラ」)が「オネエ」人気の日本において、どう活躍するのか、もチェックしておきたい。
それと、日本でインド映画というと「歌って踊る超娯楽映画」との印象が強かったが、ここ最近、日本でも歌と踊りのない地味だが心に染みるボリウッド映画が評価されており、ヒロインのプリヤが目指すの社会派映画監督(『サラーム・ボンベイ!』のミーラー・ナーイル監督をイメージしているようだ)が日本人観客にどのように受け止められるかも興味津々である。
そして、最大の関心事は、やはり日本版キャストだろう。オリジナル版の主役アカーシュは『スラムドッグ$ミリオネア』タイプのほっそり型(米国ツアーではマッチョ・タイプ)が配役され、プリヤの婚約者ヴィクラムはスキンヘッドでいかにも悪役を強調、大女優ラニもグラマー女優が配役されていた。
これを日本版では浦井健治さん、加藤和樹さんというイケメン・スター同士に競演させている事からヴィクラムを恋の宿敵としてよりロマンス性を重視する新解釈が予想され、すみれさんのプリヤや朝海ひかるさんのラニも実に可憐で、どう「ボリウッド」の世界に迫るのか、大いに期待が高まる!
文:すぎたカズト
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客席に着いて早々、ステージ中央に大きく吊られた「BombayDreams」の電飾ロゴに打ちのめされてしまった!開幕後に登場する巨大なムガル様式の多弁型アーチも荘厳で、本来はシンメトリーとなるアーチを切り取って配列する美術センスが素晴らしい。
ボリウッド映画ファンとしては日本人がインド人を演じる事に違和感を覚えない訳ではなかったが、そこを覆したのは、やはりプリヤ役のすみれさんだ。90年代に活躍した美人女優のマニーシャー・コイララを彷彿とさせる凜々しさで、歌といい存在感といい、ボリウッド女優に引けを取らない。
大女優ラニ役の朝海ひかるさんも実に華やかで、わかりやすく大仰な振る舞いがまた90年代のボリウッド映画におけるライバル出演のセオリー通りでニンマリ。
一方、ヒーローのアカーシュ役浦井健治さんとヴィクラム役加藤和樹さん、スウィーティ役川久保拓司さんにしても、みな声量豊かで、専門のプレイバック・シンガーによる吹き替えが一般的なインド映画とは違う臨場感を生んでいる。
一幕の終わり、周囲の人々から孤立し打ちひしがれるアカーシュの心情として浦井さんが歌い上げる「ライク・アン・イーグル」の深遠なフレーズは、ただ怒りに任せていた北米ツアー版よりも観客の心に深く刻まれる事だろう(この幕切れをいかに印象的に盛り上げインターミッションに突入して行くかがインド映画でも欠かせない醍醐味!)。
今回の日本版では、演出・訳詞の荻田浩一さんが実に大胆に新解釈を行い、一幕目は明るくコミカルな展開となっていて、大阪公演ではノリの良い観客相手に盛り上がる事だろう。また、ヴィクラムとプリヤの結婚式を祝うナンバー「ウェディング・カッワーリー」は花嫁を黄金と称えるめでたいナンバーであったが、日本版では悪事を告白したヴィクラムがマフィアの黒幕JK(阿部裕さん)に導かれる形での「黄金」を強調していて、ダークサイドに墜ちて行くイメージが増幅されており、オリジナルを超えている。
この『ボンベイドリームス』を機会にインド物のミュージカルが定着すれば、と願ってやまない。なにしろ、インド映画はミュージカルの宝庫であるし、「ロミオとジュリエット」に通じる悲恋「ライラーとマジュヌーン」の舞台化もぜひ…などと、エンディング・ナンバー「ジャーニー・ホーム」を聴きながら妄想が果てしなく広がるのであった。
文:すぎたカズト