アフタートークの模様をお届け!【4月11日マチネ公演/中川晃教+昆 夏美+戸井勝海】
更新日:2016/4/13
演出家トム・サザーランドさんが演出した舞台『グレイガーデンズ』を2016年1月にロンドンで見て大感激したという司会者 柳内さんの司会でアフタートークがスタートいたしました。
司会者(柳内):
『グランドホテル』公演で皆さんが演じる役どころについて、ご紹介・ご説明いだけますか。
中川:
最初演出家からは、命が溢れている・生きよういう気持ちが溢れている役どころなので、死を意識しなくても大丈夫だと説明だと聞いて、軽やかに役を創っていたのですけど……。
数日後、オットーは鉛のような体だと言われ、おっと思った。
だけど、稽古を続けていくうちに、そのギャップ、トムの意向が分かってきました。GREENのオットーとREDのオットーは全く違うオットーをトムは演出しようとしていたのだということを。
苦しいけど生きたい、生き抜きたいというオットーにたどり着きました。
トムは試しながら創るタイプ。イギリスのオフウエストエンドで演出した作品をそのまま上演するのではなく、この赤坂ACTシアターのような大劇場での上演はまさに新演出。トム自身も最初の1週間程は両チームのキャラクターを模索していたのでしょうね。
戸井:
仕事が出来るということではなく、ただひたすら誠実に家族と会社を守る家族想いのプライジング、というキャラクターを、トムと相談して創り上げています。
昨日RED team初日を見たのですが、REDのプライジングはとても仕事が出来るイメージでした(笑)
昆:
今まで演じてきた役とは全く違います。
ハリウッドを目指すタイピストという、一見キラキラしたものを求められる役のように思われがちですが、フレムシェンは、今の生活から抜け出したくて、妊娠もしていて、何かを変えられるのがハリウッドだと信じている。
自分はこの役をギラギラした役だと捉えています。
この作品の希望の一つである、フレムシェンとオットーの今後がどうなるのだろう、とお客様に想像して頂ければと思います。
戸井:
「ただのフレムシェンです!」という台詞がすごくプライジング像をつくるのに助けられていて、気持ちをかき立てられます。
司会:
開演から終演まで、どのシーンにもみなさん釘付けだったと思いますが、「ここを一番見て欲しい!」という、皆さまが特に印象に残っているシーンを教えて頂けますか?
中川:
僕は本当にこの作品に出会えて良かったです。
群像劇って何だろうって思っていたのですが、この作品に出演して分かりました。
冒頭からシーンが徐々に積み上がっていくのが分かります。たとえその直前に自分が出ていなくても、その次の自分のシーンに確実に受け継がれて、どんどん作品が深まっていくことを感じています。
それぞれのシーンが次のシーンへとつながって、積み上がっていく。
オットーは、序盤からあまり役どころとしては変わりませんが、ホテルのスタッフや宿泊者と関わり、影響を与えていきます。
そんなシーンの積み重ねが群像劇の面白いところです。
戸井:
個人的に好きなシーンは、グルシンスカヤが男爵に『私の皺を見たいの?』って言うところです。
昆:
私もです。男爵とグルシンスカヤのシーンです。
これは裏話ですが、このシーンになると稽古場で女子達は大号泣でした。わたるさん、樹里さんと一緒に食い入るように見ていました。
中川:
なんでそのシーンが好きなの?(爆)
だって、愛してると言われた後に、「いいわ。信じるわ。わたしも言いたいことがあるの。わたし、踊りたいの。」
ええ!そこ?!愛してると言われた次は、踊りたいの!と思いました。女性は強い!
昆:
グルシンスカヤが『踊りたいのっ』と男爵に言うシーンも好きなんです。
司会:
楽しい時間を過ごしてまいりましたがそろそろお時間となりました。
では、皆様より最後にお客様に一言お願いいたします。
昆 夏美さんからお願いします。
昆:
REDのそのシーンを昨日見たのですが、全くGREENと違っていて、REDも素晴らしかったです。
最後のエンディングだけではなく、役柄の個性まで全く違うので、REDも観て頂きたいです。
応援よろしくお願いします。
戸井:
両チームに、演出家トムさんの素敵なメッセージが溢れています。
見て下さったお客様に「もう1日頑張ろう」という力を与えられる作品にしたい。私たち出演者もお客様からエネルギーを頂き、更に良い作品にしていきたいです。
中川:
トムの演出でGREENとREDでは、一番最後のシーンは全く違うのですが、根本的には同じテーマだと思っています。
今朝トムさんからGREENチームのラストのシーンの演出に関する変更とメッセージがキャスト全員に伝えられました。
ここでそのメッセージの一部を読み上げますね。
是非、お客様にこの舞台の目撃者になって頂きたいです。
以下トムからのメッセージ。アフタートークでは一部のみ中川さんが読み上げましたが、全文掲載致します。
GREENチームのエンディングについてお伝えしたいことがあります。
このエンディングは非常に奥深く、この作品のメッセージを観客の皆さんが理解してくださっているのが見えて、嬉しく思っています。
しかしながら、我々が表現しようとしていることの意図とメッセージを、キャストの皆さんに理解してもらうためにも、もう一度ご説明します。
グランドホテルの最後のシーンで、観客は、人生の始まりを、たとえ死・殺人・レイプ・嘘があっても人生は続くということを「オットーの目」を通して見ることができます。
そして、希望があり、ドイツは楽観的であるべきだということも感じられます。
しかしながら、ドクターのスピーチの後、グランドホテルが死に向かっているのが見え、ホテル自体がドイツを表し、それは今の現実世界をも表しています。
暴力を受け、物品を奪われる人々は社会の(特にグランドホテルの、そしてナチスの)犠牲者です。
グルシンスカヤはロシア人の名前を持ったフランス人であり、しかも芸術家なのでナチスに嫌われていたでしょう。
彼女の特徴はナチスが嫌ったものばかりです。
そして、ラファエラは彼女のセクシャリティから、ヴィットとサンド―は芸術家のために働くボヘミアンだったから、プライジングは犯罪者だったから、オットーはユダヤ人だったから、そしてフレムシェンはそのユダヤ人の男と一緒に暮らしていたから、それぞれナチスから嫌われたでしょう。
全てのゲスト(グランドホテルの客)は、当時のドイツとナチスが攻撃の対象としたものを表しています。
ゲストたちがエリックに持ち物を与えるシーンは、例え彼ら自身は時間切れとなってしまっていても、まだ将来に希望を持っている、ということを表現しています。死と直面したときでも、人は希望をもち、人生は続いていくということです。
この先、彼らは政府に迫害されるけれども、それでも将来への希望を捨てていないのです。
そして、この作品の最後のシーンで一つだけ追加をお願いします。
エリックが最後に客席に降り、客席後方に歩いていく際、照明がフェードアウトするタイミングで、ステージ上のゲストのみなさんは観客をまっすぐに見てください。
こうすることで、ステージ上のゲストたちは観客にとっては別の時代、別の世界の人々ではありますが、現代の世界を表す鏡のような存在であるということを、観客に伝えられると思います。
ステージ上のみなさんは、エリックを見るように観客を見てください。
そして、観客の皆さんも、この時代では難しいことではありますが、希望をもち、楽観的に、そして自由に生きられる可能性を持っていることを表現してください。
最後に一つ。最後のラジオ放送について。
このラジオのスピーチではアドルフ・ヒットラーがドイツの人々にこう話しています。
「誰かがきて、誰かが去っていく。しかし残った人々は幸せになるだろう。彼らは将来が彼らと共にあることを知って、幸せになるだろう。将来はあなた方の手にある。ドイツ万歳!」
このスピーチは現代行われてもおかしくない内容です。強引な口調で、国家威信を謳っています。現代の政治家たちが行っていることと同じです。
ホテルスタッフたちが前に出てくるとき、彼らは「悪」ではないということを理解してください。彼らはただ、彼らを支配し、彼らかずっとほしかったものを与えてくれる声に惑わされているだけです。
あのヒットラーの声は、作品の最初よりもグランドホテルの人々を分離します。そしてゲストたちは自分たちがドイツの犠牲者になることを知りながら、残るのです。
もう既に皆さんを恋しく思っています。そして公演が成功し、幸せに包まれることを祈ります。
トム・サザーランドより