降りるバス停を間違えた彼らは、果たして演奏会に間に合うのか!?
かつての敵国で迷子になった警察音楽隊の、とある一夜の物語。
2018年、米演劇界の最高名誉であるトニー賞授賞式は、異様な雰囲気に包まれた。その理由は、一本のミュージカルが、ノミネートされた11部門のうち、作品賞を含む10部門を独占したからである。その作品の名は『The Band’s Visit』。2007年に公開された映画「迷子の警察音楽隊」(カンヌ国際映画祭ある視点部門・国際批評家連盟賞、ジュネス賞、一目惚れ賞/東京国際映画祭・最優秀作品賞)を原作に、ミュージカル『ペテン師と詐欺師』の作曲家デヴィッド・ヤズベックが作曲と作詞を手掛けた作品だ。
トニー賞で10部門を独占したのは2006年の『ビリー・エリオット』以来の快挙だが、本作は大規模で派手な趣向のある作品というわけでもない。しかし、イスラエルに演奏旅行に来たエジプトの音楽隊が道に迷い、地元のイスラエル人と一晩交流をするというシンプルな物語の中に流れる、抒情的な空気と独創的な音楽は、得も言われぬ魅力を放つ。
この度上演が決定した日本版『バンズ・ヴィジット』の演出を手掛けるのは、第21回読売演劇大賞・最優秀演出家賞、第47回菊田一夫演劇賞を受賞した森 新太郎。古典から現代劇、近年では『パレード』や『ピーター・パン』とミュージカルの演出も務めている。先日発表された、第30回読売演劇大賞の2022年上半期に於いては、舞台『冬のライオン』『奇跡の人』で演出家賞にノミネートされている。
米国で本作が圧倒的な評価を得た背景には、楽曲や俳優陣の素晴らしさもさることながら、歴史的に対峙してきたエジプトとイスラエル二国の国民同士が、国境を越えて心を通わせるという、人間の本来あるべき姿を描いたメッセージが、時勢に即して人々の心に刺さったことが大きい。
世界中で平和への願いが強まるとき、本作が日本で観客にどのようなメッセージを届けるのか、目が離せない。